小代焼ふもと窯
安土桃山時代から江戸時代初期(1500年代後半から1600年代始め)にかけて活躍した武将、肥後国熊本藩初代藩主の加藤 清正の御用窯として、朝鮮の陶工 井土 新九郎により熊本県荒尾市府本字古畑に開かれた古畑窯が、小代焼の発祥とされています。2003年には、熊本で始めて国の伝統的工芸品として指定されました。
陶土として良質の粘土層がある小代山。
ふもと窯は昭和43年。その土地に井上 泰秋氏により登窯されました。
現存する小代焼の窯元の中でも最大級の6袋の登窯を所有するふもと窯。現在は熊本民藝館館長であり窯主の井上 泰秋氏の他に、ご子息の尚之氏と二人のお弟子さんが作陶されています。
ふもと窯に年初めの初窯開きのタイミングでお邪魔すると、窯から出された器を入れる多数の竹かごが山積みに重ねられ、陶工さん達が1つ1つ器のあがりを確認し、もくもくとヤスリがけをしていらっしゃいました。ふもと窯では、年初めの初窯開きには窯元周辺に多くののぼりを立て、多くの方々がお迎えするそうです。一時は4000人を超えていたといいますから、どれだけ長年ふもと窯が親しまれ、また器のあがりを心待ちにされている方が多いかが想像できると思います。
ふもと窯の窯主である井上泰秋氏。ふもと窯があるあたりでは、焼き物とは関係のない一般の方々も知らない人はいないという名陶です。泰秋氏の湯呑みや皿などを贈り物にするのが慣わしとなっており、皆さん器の裏底に「小代 泰」と彫られた美しい焼き物を目指していらっしゃるそうです。泰秋氏が作られるものは、小代焼の伝統的な釉薬と技法のものですが、キリッとした形の力強さと美しさは圧巻です。是非、ふもと窯を訪れた際には手に取ってご覧頂きたい焼き物です。
泰秋氏のご子息 井上 尚之さんは、小石原焼の太田 哲三氏に師事しヨーロッパを中心に広まったスリップウェアと呼ばれる陶器を中心に作陶されています。ちなみに
スリップウェアとは、スリップと呼ばれる流動性のある化粧土を用いて、スポイトなどを使い文様を描き、低火度で焼成する焼物の総称のことです。尚之さんの器は、そのスリップの技法を用いて、低火度ではなく登り窯を用いて1200-1300度の温度で日本の現代の生活スタイルに合わせて作られています。スリップウェアは低火度で作るからいいんだと最初の頃はいう方もいらっしゃいましたが、尚之氏が作り続けるスリップウェアが認知されると、そのようなことを言う人もいなくなったように感じます。
工房にお邪魔すると、それはそれは大きな声と太陽のような笑顔で迎えてくださる尚之さん。作陶では「人の期待をいい意味で裏切りたい」とおっしゃり、小代焼という伝統的な窯の産地に生まれながらも、スリップウェアの作陶を継続されています。現在では年に6,7回窯を炊くというふもと窯。窯から出てくる器を見ると「目新しいものはないですよ。繰り返しの仕事ですから」と仰る尚之さん。しかし、少しずつ器の形が変わっているのがわかります。よりよいものをという意識が、改良されていく形から感じます。失敗したという器を見ながら「僕がいけないんです。欲がでました」と仰る尚之さん。民藝の「作為を超えた美しい実用品」を作られています。もちろん、スリップウェア以外にも伝統的な小代焼の焼き物も窯の仕事としてされています。工房横には、尚之さんのお姉様が取り仕切られている販売所がありますので、お近くの際には足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
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